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一般演題①

1

浴槽での熱傷から大腿切断に至った2例

中村 由実子(徳島大学病院 形成外科・美容外科 高知赤十字病院 形成外科)

【はじめに】一般的に浴槽内での熱傷は,火炎による熱傷や電撃傷等と比較して深達度は浅く,四肢大切断にまで至ることはまれである。入浴中に熱湯で受傷した熱傷患者で,大腿切断を要した2症例の治療を経験したので報告する。

【症例1】67歳,男性。25%TBSA。浴槽内で3時間近く動けなくなっていたところを発見され救急搬送された。受傷15日目に左大腿切断を行ったが,敗血症,多臓器不全へと病状が進行し,第37病日に永眠された。

【症例2】75歳,男性。15%TBSA。薪で焚く風呂が沸き立っているのに気づかず右下肢を入れてしまい受傷した。自力で浴槽を出て救急要請し搬送された。受傷12日目に右大腿切断を行い,完治に至った。

​【考察】症例1ではもともと糖尿病性足潰瘍を契機とした壊死性軟部組織感染症を生じていた下肢にさらに熱傷を受傷したと推測され,これが不幸な転機となった主要因と考えられた。症例2では大腿切断が究明に大きく寄与したと考えられた。

2

頸部熱傷後瘢痕拘縮によって両側顎関節脱臼を来した1例

​金山 晴香(鳥取大学 形成外科)

症例は81歳女性。コンロの火が衣服に燃え移り、顔面~前胸部・背部・左上腕にTBSA30%の第3度熱傷を受傷した。前医で3度のデブリドマンおよび培養表皮移植および分層植皮術を施行後、リハビリ転院となった。受傷後3か月で両側顎関節脱臼をきたし当院に搬送された。頸部の拘縮により徒手整復できず、全麻下に当科で下顎から頸部の瘢痕拘縮を減張切開し、続いて口腔外科により観血的整復術が施行された。術後は顎外固定装具を装着し、1か月後に頸部から前胸部に全層植皮術を施行した。拘縮は改善し、顎関節脱臼の再発は認めていない。頸部や四肢関節部の熱傷後瘢痕拘縮は可動域制限など機能障害をきたすことがある。熱傷後瘢痕拘縮による手指・肩関節の脱臼は多く報告されているが、顎関節脱臼の報告は渉猟し得なかった。自家培養表皮移植などにより広範囲熱傷患者の救命例は増加しており、顎関節脱臼は熱傷後合併症として留意が必要と考えられた。

3

Stenotrophomonas maltophiliaが検出された重症熱傷症例の検討

​宮内 律子(山口県立総合医療センター 形成外科)

S.maltophiliaは湿潤な環境で生息する、比較的病原性の低い菌であるが、近年日和見感染や医療施設内感染症の原因として増加しており、熱傷患者において多いとする報告もある。またカルバペネム系を含む全てのβラクタム薬に自然耐性を示し、重症化した場合その対応に難渋する。近年当院でICU管理を行った熱傷症例について後ろ向きに検討を行った。2020年1月から2024年10月の間でICUにて管理を行った対象症例は6例で、6例中5例で本菌が検出された。このうち血液培養、カテーテル培養、喀出痰培養にても陽性となった1例は受傷後44日目に永眠された。当院での検出件数も増加傾向を認め、危険因子や対応法について文献的考察を行い報告する。

4

マイクログラフトと人工真皮による母床構築後に自家培養表皮移植にて救命しえた高齢者広範囲熱傷の1例

藤井 直人(鳥取大学医学部附属病院 高度救命救急センター)

【はじめに】高齢者の広範囲熱傷の予後は不良であることが多い。今回我々はマイクログラフトと人工真皮にて母床構築を行った後に自家培養表皮移植を行い救命できた高齢者広範囲熱傷を経験したので報告する。

【症例】73歳男性、野焼きにて衣服に引火したもの。火炎熱傷で、TBSA55%と診断した。第1・2・3・8・10病日にデブリードマン、分層植皮術を施行した。raw surfaceに対して人工真皮を貼付し、その際RECELLやリジェネラによるマイクログラフトを創部に噴霧し人工真皮を貼付した。第23・28病日に自家培養表皮を移植し受傷3か月目にはほぼ閉創となりICUを退室した。

​【結語】マイクログラフトと人工真皮の併用は浸出液の減少、母床構築の促進に寄与することが予想され、広範囲熱傷治療に有効な可能性が示唆された。

5

片側精巣壊死のため遠隔期に精巣摘除を行った,

会陰部を含む若年男性の広範囲3度熱傷の1例

​三次 悠哉(岡山大学病院 救命救急科 岡山私立市民病院 外科)

【目的】会陰部の熱傷で,片側精巣摘除を要した若年男性の症例を経験したため報告する.

【症例】20歳男性.バイク運転中に軽自動車と衝突し,バイクが炎上し受傷,救急搬送された.顔面と,陰部(陰嚢の右3/4がDB),臀部から両下肢に至る23%TBSA(概ね全範囲DB)の熱傷を認めた.翌日に顔面を覗くDB領域のデブリドマンを施行した.この時点で,右精巣の主題と硬結を認め,ドプラエコーでは血流低下が疑われた.受傷10,17日目に右精巣の政権を行ったが,組織は壊死していた.植皮は良好に生着したが右精巣は徐々に萎縮し,受傷4か月時点で左精巣のエコー所見は正常も,精液検査では濃度0.44x10*6/ml,運動率5%(正常値;160.0x10*6/ml,42%)で,更なる悪化を懸念し精子凍結保存を行った.抗精子抗体による左精巣への影響も考慮し受傷半年後に右精巣摘除を施行した.以後精液所見は改善傾向にある.

​【結語】若年者の会陰部熱傷では,将来の性機能も意識して治療にあたることが重要である.

一般演題②

SORBACT®による熱傷総管理の有用性

​木村 知己(川崎医科大学 形成外科学)

【目的】SORBACT®はバイオフィルムの生成阻害・除去する効果がある創傷ドレッシング材であり、様々な創への適応がある。我々は熱傷創管理にもSORBACT®を使用しており、症例を供覧する。

【方法】SDB~DDBの熱傷創面:軟膏をSORBACT®に練りこみ熱傷創面に貼付、ガーゼでドレッシングする。コンタクトレイヤー:NPWT使用時に、また植皮術の際にコンタクトレイヤーとしてSORBACT®を創面においている。

【結果】熱傷創でバイオフィルムが生成されにくく、創管理が容易であった。肉芽増生や植皮の生着も妨げることはなかった。

​【考察】熱傷創面はバイオフィルムを形成することがあり、除去時に疼痛や出血を伴うが、SORBACT®を使用することでバイオフィルムの形成を抑制し、感染制御およびガーゼ交換の疼痛軽減が認められた。コンタクトレイヤーとしても使いやすく、熱傷創管理においてもSORBACT®は有用であると考えられる。

2

当院における広範囲熱傷に対するネキソブリッド®外用ゲルの使用経験

佐々木 健介(徳島赤十字病院 形成外科)

症例は50歳、男性。溶接作業中に衣服に火が燃え移り受傷し、救急搬送された。頸部~胸部、腹部、腰背部、右臀部、左上腕に体表面積20%程度のDDB~3度熱傷を認め、同日より救急科で入院加療が開始された。受傷2日目に、ネキソブリッド®外用ゲルを使用して創部のデブリードマンを施行し、受傷13日目に体幹前面と左上腕の追加デブリードマン、分層植皮術を施行し、受傷22日目に右臀部の追加デブリードマンを施行した。背部、腰部の大部分は植皮を行うことなく上皮化が得られた。右臀部、腰部に残存する潰瘍は保存的処置の継続で瘢痕治癒させる方針とした。熱傷における壊死組織除去剤であるネキソブリッド®外用ゲルを使用し、良好な経過が得られた症例を経験したため報告する。

3

ベッドサイドで体幹背面へのThiersch植皮が有効であった

広範囲熱傷の1例

伊澤 勝哉(高知赤十字病院 形成外科 徳島大学病院 形成外科・美容外科)

救命し得た広範囲熱傷において、残存潰瘍の存在は処置の負担により転院が困難となる一因となる。処置の際にThiersch植皮を繰り返し行い、全ての創を治癒させて転院させることができた広範囲熱傷の症例を経験し、有用な方法であると考えたため報告する。症例は88歳男性で、施設の浴槽で熱湯により背部、臀部、両下腿に深達性Ⅱ度からⅢ度の熱傷を受傷し、当院に救急搬送された。TBSAは37%、PBIは122であった。体幹背面はデブリードマンの後に分層網状植皮を実施したが、植皮の生着は半分程度であり、数か所に島状の熱傷潰瘍が残存した。これらの処置の負担は大きく、転院の障壁になると思われたため、全ての熱傷の治癒が必要と考え、包交処置の際にThiersch植皮を継続的に実施した。全ての熱傷潰瘍の治癒が得られ、転院調整は円滑であった。Thiersch植皮の方法は施設によって様々であると思われるが、我々が行ったベッドサイドで行う方法を詳述し、その利点について考察した。

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